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 様々なエロバラエティ番組が撮影され、全国放送されている今の世の中、ならば水着を奪われ、乳房を晒す羽目になったアイドル達も、自分がどんな番組に出ているかを悟っていた。
 悟るも何も、盛大に明かされていた。

「はーい! ドッキリでしたー!」

 マイクを握り、テンション高くカメラに向かって声を上げ、今にも踊り出しそうなほどにノリノリの若い男は、スーツを着こなした司会者だ。
 いくつもの番組でメイン司会を務める彼は、今回の撮影にもまた呼ばれ、内容を盛り上げる使命を背負っている。
「えー、彼女達を使ったプールの宣伝企画はですね? これは本当なんですけども、別の番組企画も並行してね? 同時にやっていたわけですよ」
 宣伝部分を表の企画として、別の番組――つまり、エロバラエティの企画は裏に隠されていたわけである。
「というわけでですね? 彼女達四人も、私の番組に出演して下さることが決定しました!」
 これは放映時、番組の冒頭部分に使われる予定の撮影だ。
 当初、エロバラエティへの出演を拒んでいた四人だが、そこでドッキリを画策し、仕掛け人のイタズラで水着を奪って、ハプニングを装い乳房を撮る。
 もうエロバラエティ用の映像は撮ってしまったので、乳房が放映されること自体は避けられない。おまけに様々な根回しもしてあるので、これ以上の拒否はできず、そうして見事番組に呼ぶことに成功した。
 よってこれから彼女達四人がスタジオに現れ、様々な羞恥企画に則り、ゲームに参加してくれます。
 といった筋書きの冒頭である。

 四人のアイドル達は上半身裸で並んでいた。

 それぞれ腕のクロスで乳房を隠し、頬を赤らめながら水面を背にしている。
 見世物として並べられ、こうして立たされている思いといったらない。
 それぞれ屈辱を味わう中、こうである。

「では樋口円香さん! 現在どんなお気持ちですか?」

 司会者は、横一列の一番右、円香に対してマイクを向け、煽らんばかりのインタビューを開始している。水着を奪われ、乳房の映った映像がエロバラエティに使われることが確定して、その感想はどんなものか。
 これを本人に聞こうなど、煽りや追い打ちである。
「……ず、随分、下らない企画だなーと思いますけど」
 機嫌の良い答えなど、あるはずもなかった。

「では浅倉透さん! どんなお気持ちですか?」

「あー……。えーっと、出演しなきゃ駄目ですか?」
「そうですねぇぇぇ! 既に色々と根回しも済んでいるようなので、出演拒否は無理ではないかと」
「そうですか……」
 いかにも気乗りしていない、本当は出演などしたくもない気持ちが、透の赤い顔にはいくらでも滲み出ている。

「続けて福丸小糸さん! どんなお気持ちでしょう!」

「わ、わたし……! すっごく、驚いてます! いきなり水着取られて、見られちゃって……水着、返して欲しいです……!」
 そして小糸の番になった時、取られたものを返して欲しいという、とても当たり前の言葉が出て来ていた。

「最後に市川雛菜さん! どんなお気持ちでしょう!」

「あ、あはぁー……。雛菜も、今は水着を返して欲しいかなーって、思ってるかなぁー……」
 顔が引き攣っていた。
 カメラの前だからか、それでも笑顔を作ろうとしていながら、腕のクロスでしか乳房を隠せない状況に赤らんで、とても切実な気持ちを口にしている。
 こんなショーツ一枚の格好で、司会者の男が迫って来たり、周りを撮影スタッフに囲まれている状況は、余計に羞恥心を煽ってくる。
 ただでさえ恥ずかしい中、撮影スタッフのさらに周囲にはエキストラがずらりと並び、四人の裸を静かに見学しているのだ。
 騒ぎ立てないマナーはいいが、ニヤニヤした顔で鼻の下を存分に伸ばし、大いに興奮している男という男の数々の表情は、より大きな不快感と羞恥を煽る。
「さぁて! 水着を返して欲しいとのことですが、このプールで行う宣材映像の撮影はまだ残っているわけでしたね? というわけでして、彼女達には新しい水着を用意して、ひとまず撮影の続きを済ませて頂きましょう!」
 司会者がそう告げると、それを合図にしたように、一人のスタッフが四人のアイドル達へと水着を配る。
 四人はそれぞれ、乳房が見えないように気をつけながら、慎重に受け取っていく。両腕のクロスを緩め、片方の腕だけを使う四人は、皆が皆ぎこちなく、胸に残した腕の方にはより一層の力を込めていた。
 その配られた水着も、彼女達にとっては納得のいくものではなかった。
 マイクロビキニに近しい、非常に小さな三角形の布しかない、心許ない水着であった。
 四人のアイドル達は、スタッフやエキストラに背中を向け、後ろを向いた状態で着用する。背中に両手をやって、紐を結ぶ最中までは乳房を見せずに済むのだが、全員の着用が済んだところで、また前に向き直らなくてはならなかった。
 この一連の流れもまた、エロバラエティのための一環として考え出された演出の一部である。
 恥ずかしそうに水着を身に着けるシーン。
 加えて、その水着の露出度が高すぎるので、振り向くことも恥ずかしいというシーン。
 それこそが、企画会議の中で話し合われて、採用された演出意図のようなものだった。
「はーい! 今度はね? きちんと水着があるわけですから、もう腕で隠しちゃ駄目ですよ?」
 などと司会者が言う手前、振り向いたアイドル達は揃って腕を下ろしているが、全員の顔が赤らんでいるのは当然だった。
 ほとんど乳首しか隠れていない。
 乳首や乳輪さえカバーできれば、その周囲にある膨らみの部分がどれだけはみ出ても構わない。
 そんなマイクロビキニのために、四人はそれぞれカメラや見学の群れから目を背け、横向きがちや俯きがちになりながら、顔中まんべんなく染め上げているのであった。
 しかも、話はこれだけに留まらない。
 四人にはまだ、この水着でプールに入り、泳いだり遊んだりしている場面を撮るという仕事が残されている。
 ストレッチなどの準備を済ませ、入水を行う直前の、四人揃っての何かを警戒した表情といったらない。既にドッキリを仕掛けられ、エロバラエティ番組への参加も決定されてしまっているらしい状況で、他にもネタが残っているのではないかと気が気でない。
 目の前に待つプール内での撮影が終わっても、また別の収録があるらしいことを思うと、アイドル達の心は自然と沈み、あまり明るいものではなくなっていく。
 プール内での撮影に、特にこれといった指示はなかった。
 適当に水を掛け合ったり、泳いだり、ぷかぷかと浮いたりしていれば、それを編集側が良い具合に切り取って、素材として使いこなして宣材映像に仕立て上げるという。
 プールの水深は、立っていれば肩から先が出るくらいのもので、学校にある深さと似たようなものである。
 その中で四人は顔を突き合わせ、困ったような無言の気まずい空気を漂わせていた。
「どうする?」
 と、円香が言う。
 だが沈黙が流れ、誰もすぐには答えない。
「え、えっとぉ……。遊ぼっか!」
 小糸が苦し紛れに提案して、その沈黙をどうにか破った。
「そーだね。ざっばーん」
「きゃっ」
 いつまでも突っ立っていても仕方がない。
 とりあえずそうしておこう、といった実に微妙な空気の中で、透は水をかけていた。その水を顔に浴び、小糸は小さく悲鳴を上げていた。
「あはー。じゃあ、雛菜もー」
「あっ、ちょっと……」
 雛菜に水をかけられて、円香も軽くやり返す。
 いかにもたどたどしい水かけっこに、プールサイドのカメラマンはそれでもカメラを向け続け、傍観している監督や他のスタッフ達も、特に指示を出そうとしない。
 もっと自然に、楽しそうに――と、何か注文をつけてもよさそうな、あまりのぎこちなさなのだが、しかし誰も何も言わないのだ。
 その理由は簡単だ。
 始めから、それほど自然さは重視されていないのだ。
 四人はまだ気づいていないが、そこには防水カメラを握ったカメラマンが入り込み、アイドル達を密かに映し始めている。四人が入水を済ませた後を追い、エキストラに紛れたようなさりげない振る舞いで、気づかれることなく撮影を開始していた。
 その防水カメラの目的は、もちろん単に水中での映像を組み合わせ、編集素材とするためだけではない。
 プールの宣材材料は、決してメインではない。
 ドッキリ要素がまだ残っているのだ。
 四人が警戒していたような、その何かがこれから起こる。然るべき瞬間を捉えるためのカメラこそ、水中で彼女達へと向いているのだ。

 水着が上下どちらも溶け始めていた。

 四人はまだ気づいていない。
 ぎこちない水かけっこをしているまま、水面に隠れた自分自身の身体にも、仲間の水着の様子にも気づいていない。
 だが、もちろん時間の問題だった。
 繊維が溶ければ溶けるほど、乳首やお尻を隠す布は厚みを失い、紐の部分もだんだん細くなる。溶ける際にほつれた糸は、水中で分離していきながら、その細かな糸くずも文字通りに溶け消える。
 肌に接触していたものが消え、布のあった部分に水が直接触れてくれば、やがてはその違和感に気づくのだった。
「あれ、なんか……。おかしくない?」
 と、円香が口にした時である。
「あ、あはー……? 本当だー。お、おかしい……ねー……」
 雛菜は逆に笑っていた。
 恐るべき事態を前にした時、人はかえって笑うしかなくなるような、実に引き攣った笑みなのだった。
「こ、これって……これも……!」
 小糸は水中で身を隠す。
 右腕で乳房を押し潰し、左手ではアソコをぴったりと覆い隠して、それを合図にしたように、皆も一斉に自分の恥部を守り始めていた。
「……だね。絶対、これもだ」
 ドッキリとは口にしないが、透は小糸の言わんとしていることに対して頷いた。
「ねえ、浅倉。もしかしなくても、私達……」
「……だね。樋口」
 嫌な予感が漂っている。
 周りではエキストラが遊んでいる中、その中心で自分達は全裸という状況に四人は置かれた。わざと溶ける水着を用意して、人を陥れたのが明白な中、親切に次の水着を用意して、安心させてくれるわけがない。
 昨今のエロバラエティでは、女子高生の裸をテレビで流すことなど、珍しくはなくなっている。乳房もアソコも、お色気番組であれば流すことは当然と化している。
 そして、プールの宣伝企画かと思いきや、エロバラエティという別企画の撮影も兼ねていたのだ。しかもそちらへの出演も、本人達の意思を無視して、決定事項の扱いとなっているらしい。
 ということは、水着が溶けて消えたのも、企画に沿ったシナリオ通りの展開なのだ。
 いきなり全裸にされてしまって、四人は一体どうするつもりか。その様子を面白おかしく追いかけ回し、挙げ句の果てには四人のことを後日スタジオに招き寄せ、そこでVTRを流す予定に違いない。
 今ここでの恥ずかしさに加え、その後の未来に対しても、四人は大いに不安を抱くわけだった。





 
 
 

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